解雇する立場の心構え

 つい最近、ある経営者から社員を解雇したいのだが、どう話したらいいのかということを質問された。
 
 俺は 20 代の後半から現在に至るまで、100 人以上の社員を解雇する役を賜って(笑)きた。まっ、ここ数年は社長ではやりづらかろうということで、何社かで自分から進んで解雇する役になってきたわけだが。
 
 もちろん楽しい仕事ではない。その度に胃潰瘍になってきた。血尿と血便が出たこともある。自分が解雇や左遷をされた経験を持つので、意識して考えないようにしていても、ついつい相手の立場を想像してしまうのだろう。
 
 
 俺は、人に解雇を言い渡すときに守っていることがある。それは、その場しのぎの言い訳や嘘を言わないということ。感情を一切挟まずに事実だけを言うこと。そして、解雇に至った責任を誰のせいにもしないということ。もちろん、解雇される側に非があれば、それを淡々と告げること。
 
 極めて当たり前のことだよ。だけど、解雇する側の気持ちになれば、これがそう簡単にはできない。法的な問題よりも、被解雇者に自分が酷いことをする人間に思われたくないという気持ちが働くからだし、解雇後に起こると想像できるゴタゴタをなるべく回避したいという逃げの気持ちがあるからだ。
 
 俺も被解雇者に嘘や言い訳を言ったことが過去にはあります。でもそういうときは後で必ずと言っていいほど後で問題がおきた。
 
 たとえば被解雇者に問題があって解雇するときで、その問題点というのが他の社員にもある程度はありうるような問題の場合は、その問題点をつい、ぼかしてしまうことになりがちだ。そうした場合、「なんで俺だけがあの問題で解雇されなければならないんだ!」と言って、他の社員の中傷を始めたりする。ただでさえ解雇というものが社内で起きると組織が揺れるのに、そうした中傷が始まると余計な時間と力を割かなければならなくなる。
 
 次によくある問題は、会社の経営が思わしくなくて人件費を下げるために解雇する場合。この場合は会社都合での解雇にしなければならないのだが、風評や新卒が受け入れにくくなることを恐れて、なるべく自己都合にしてくれという経営者が多い。当然だがこれはやってはいけない。嘘だからだ。こういう例では下手をすれば労基やどこぞのユニオンから責められることになるやもしれない。風評なんか気にしていけない。ましてや会社の経営が思わしくないときに新卒を採用することなど考えていてはいけない。なのに会社の規模がある程度大きくなると、必ず風評は重要だとか、新卒は採り続けなければいけないなど、いろいろ言い訳(俺にとっては言い訳)が出てきて会社都合を避けようとする。
 
 トレードオフ(二律背反)って考えかたができないのだろうか。何事も 100%良い方法なんて世の中にはないと思っておいた方がいい。一番重要なことを実現するために、二番目に重要なことを失うことを恐れていてはまともな経営なんてできない。人件費をカットしないと会社がダメになってしまうのなら、世間の風評なんて恐れてはダメだ。上場企業なら風評が株価につながるから重要だというだろうが、株価を気にして根本が腐ってしまった会社の例はいくつもある。木を見て森を見ずだ。
 
 社会は何事もトレードオフの関係で成り立っている。会社都合で社員を解雇するときに伴うリスクも、会社を存続させるためのトレードオフ。そして嘘や言い訳をせずに解雇を通告するときの嫌な思いも、その後の経過をスムーズにさせるためのトレードオフ。
 
 人は俺に、「いつも嫌な役割をさせられてますね」っていうけど、確かに楽しい役ではないが、自分を成長させるために必要だったと思っているからトレードオフ。解雇の役をやり続けてきたことで、嫌なことから逃げなくても向かい合えるようになってきたと思っている。
 
 逃げてはいけない。自分の都合だけ考えてはいけない。感情を抜いて相手と本音で語り合うべきだ - 俺は冒頭の経営者の質問にそう答えた。